塾  報

塾報NO.35 2024年11月15日号

「喪のある景色」

うしろを振りむくと
親である
親のうしろがその親である
その親のそのまたうしろがまたその親の親であるというように
親の親の親ばっかりが
昔の奧へとつづいている
まえを見ると
まえは子である
子のまえはその子である
その子のそのまたまえはそのまた子の子であるというように
子の子の子の子の子ばっかりが
空の彼方へ消えているように
未来の涯(はて)へとつづいている
こんな景色のなかに
神のバトンが落ちている
血に染まつた地球が落ちている

喪のある風景 山之口貘


 視点を変えれば、地球上の歴史とは、子を案じる親とその親と、そのまた親と果てしなく続くながい列だと思います。
 十代も折り返し。せっかく生を受けたのだから、力強く次にバトンを渡せるように自分を「主語」にまっすぐに生きていきましょう。



バックナンバー

塾報NO.23 2022年12月20日号

「帰省ラッシュ」

 仕事納めも過ぎると町はぐっと年末の匂いが濃くなる。門松を飾ったお宅も増えてきた。なるほど。苦につながる,「九立て」の二十九日を避けて,その前日に飾ったか。こういうことが今もきちんと守られているのが微笑ましい。ちょっと落ち着きもする。
 通勤電車は空いているが,駅には大きな荷物を携えた方が大勢いらっしゃる。帰省ラッシュが始まった。「家族が一人増えたので,実家の家族に見せたい」。テレビのインタビューで若いお母さんが答えていた。それだけのニュースにホッとする。正直に言えば,ちょっと目を潤ませたりもする。
 超少子化や独居世帯という言葉がもはや大きな話題にさえならぬ時代にあっても,ちゃんと帰省ラッシュが起きている。
 この時期に思い出す,古い広告がある。「思い立った日が父の日,母の日になる。」(JR九州)コピーライターの赤石正人さんの作品で,続きがある。年に一回,四,五日帰省するとして,十年で四,五十日。十年でいっしょに過ごす時間がたった二か月・・・。
旅行カバンをさがしたくなる。
 帰る場所がある。会える人がいる。限られた幸せを堪能していただきたい。「𠮟らる叱らる人うらやまし年の暮れ」一茶。
思い立っても,父の日,母の日とはならない人もいる。
 お気をつけて,帰省の旅を。  中日新聞朝刊 中日春秋より

 正月に家族全員が顔を揃えることが親にとってどれだけうれしいかは,家庭をもち,親となった人ならだれもがわかります。正月は,おたがいの顔を見ることで,それぞれの人生に憂いはないかを確かめ,皆が新しい年を迎えることができた安堵と喜び,感謝の念をしみじみと感じとる日なのかもしれません。
 「時は流れない。それは積み重なる。」
これは,わたしのお気に入り,サントリーウイスキーのCMで使われていた秋山晶さんの昭和を代表する秀逸のキャッチコピーです。時は流れ去るのではなく積み重なる。
 過去から現在,そして未来にわたって,誰もが積み重ねていく「とき」に少しだけ思いを巡らせて,来年はこころ穏やかに過ごす一年にしていきたいですね。

 

塾報NO.12 2021年11月26日号

冬がきたら

冬がきたら 冬のことだけ思おう
冬を遠ざけようとしたりしないで
むしろすすんで 冬のたましいにふれ
冬のいのちにふれよう

冬がきたら 冬だけがもつ
深さときびしさと 静けさを知ろう

冬はわたしに いろいろなことを教えてくれる
先ず沈黙の大事なことを
すべての真理は この沈黙のなかからのみ生まれてくることを
それから自己試練の大切なことを
すべての事を成就するには
この不屈なたましいによってのみ成功することを・・・・・・


日本の仏教詩人、坂村真民さんが詠んだ「冬がきたら」という詩の一部です。

大事なことは、あえて、常に少し勾配のある道を選ぶということです。そして、ちょっとぐらい辛く難しい状況でも、やってやるぞと自らを鼓舞することです。木の肝心はその根にあります。来年も、その大地を支える強い根っこを育てていきましょう。